部門紹介
放射線科・中央放射線Q&A
身の回りの放射線(自然放射線)
私たちは自然界からも放射線を受けています。
私たちは、様々な放射線や放射性物質の中で生活しており、放射線や放射性物質はその意味で私たちにとって身近な存在といえます。自然界から受ける放射線を自然放射線と言い、私たちは大地、宇宙、食物及び空気中のラドンから平均して1人当たり年間約2.4ミリシーベルトの放射線を受けています。
※当院の胸部Ⅹ線撮影で受ける被ばく線量は1回約0.2ミリシーベルト(10回から12回の撮影に相当)
放射線と放射能について
- 放射線・・・エックス線やガンマ線、中性子線などの総称
- 放射能・・・放射線を出す能力、放射性物質の量
- 放射性物質・・・ウランやラドンなど放射線を出す物質
- ベクレル(Bq)・・・放射性物質の量
- グレイ(Gy)・・・物質に吸収される量(吸収線量)
- シーベルト(Sv)・・・人体への影響を示す量
※Gy ≒ Sv
放射線による健康影響
- 身体的影響・・・被ばくした本人に現れる
- 遺伝的影響・・・被ばくした本人ではなく、その子孫に現れる
※ヒトではこれまでに放射線による遺伝的影響の発生は確認されていない。 - 早期影響・・・被ばく直後、または数日ないし数週間以内に現れる
(例)吐気・下痢・脱毛など - 晩発影響・・・被ばく後、数ヶ月以上の期間を経て現れる
(例)白内障・がんなど - 確定的影響・・・しきい線量があり、しきい線量を超えて被ばくしたときに現れる影響
(例)吐気・下痢・脱毛・白内障・皮膚障害・不妊など
※しきい値・・・影響が現れる線量値 - 確率的影響・・・しきい線量がなく、被ばくした線量が大きくなるほど、発生する確率が大きくなる。
(例)がん・遺伝的影響など
※同じ線量でも1度に受ける場合と分割して受ける場合とで差が出る。
※年齢・性別・臓器・組織などの違いによっても個人差が出る。
≪放射線感受性≫
人体に対する放射線の影響は、組織・臓器によって差異が生じます。これを放射線感受性といいます。放射線感受性が高いということは、放射線の影響を受けやすいことを意味しています。
放射線感受性がいちばん高いのはリンパ組織ですが、骨髄、生殖腺も感受性の高い臓器です。逆に、神経のかたまりである脳はいちばん感受性が低く、比較的線量の高い頭部CT検査による被ばくの影響が問題にならないのはこのためです。
四肢(手足)についても主に筋肉や骨でできているため、放射線の影響を受けにくいといえます。
組織・臓器の放射線感受性の高い順位
- リンパ組織(胸腺・脾臓)
- 骨髄
- 生殖腺(卵巣・精巣)
- 小腸上皮・大腸上皮
- 口腔粘膜・皮膚上皮
- 毛細血管
- 水晶体
- 毛嚢
- 腎臓・肝臓
- 肺
- 唾液腺
- 汗腺・皮脂腺
- 皮膚全層
- 膵臓
- 副腎・甲状腺
- 筋肉・心臓
- 結合組織・大血管
- 軟骨
- 骨
- 神経細胞
ヒトのがんの原因
≪放射線被ばくを防止するための3つの基本≫
1.距離・・・放射線を発生する物質からできるだけ離れる。
2.時間・・・放射線を受ける時間を短くする。
3.遮蔽・・・鉛やコンクリートなどを使用することで放射線をさえぎる。
≪被ばくレベル≫
レベル | 線量 | 影響 |
---|---|---|
レベル1 | 50mGy未満 | 影響はない |
レベル2 | 50~200mGy | 100mGy以上で胎児への影響 |
レベル3 | 200mGy以上 | 身体的影響 |
≪胎児への影響≫
胎児への影響 | 時期 | 被ばく線量(しきい値) |
---|---|---|
胎児死亡(流産) | 着床前期(受精~9日) | 100mGy |
奇形の発生 | 器官形成期(2~8週) | 100mGy |
精神発育遅滞 | 胎児期(8~25週まで) | 120mGy |
当院の骨盤計測撮影(グッドマン・マルチウス)時の被ばく線量・・・約10mGy
≪生殖腺への影響≫
影響 | 被ばく線量(しきい値) |
---|---|
男性/一時不妊 | 150mGy |
男性/永久不妊 | 3,500mGy |
女性/一時不妊 | 6,50mGy |
女性/永久不妊 | 2,500mGy |
当院の骨盤部のCT検査を1回受けたときの被ばく線量
- 子宮・・・26mGy
- 卵巣・・・23mGy
- 精巣・・・1.7mGy
当院の主な検査別被ばく線量(推定値)
単純撮影(1回の撮影の値であり、2回撮影した場合は概ね2倍)
- 頭部:1.2mGy
- 胸部:0.2mGy
- 腹部:1.2mGy
- 腰椎:4.4mGy
- 四肢:0.1mGy
- 骨盤・股関節:2.8mGy
- 胸部(小児):0.1~0.2mGy
- 腹部(小児):0.1~0.5mGy
- マンモグラフィ:1.4mGy
CT検査
- 頭部:60mGy
- 胸部:12mGy
- 腹部:35mGy
- 骨盤部:27mGy
透視検査・血管撮影 (透視時間と撮影回数により線量は大きく異なります。)
- 胃透視:50~100mGy
- 注腸:20~200mGy
- 血管撮影:500~2000mGy
核医学検査(最大被ばく部位)
- 骨シンチ:12mGy(膀胱)
- Gaシンチ:17mGy(骨髄)
- 心筋シンチ:21mGy(卵巣)
- ヨードカプセル:26mGy(甲状腺)
医療被ばくQ&A
X線検査は年に何回まで受けてよいですか?
その人の病気によって必要な写真の数は違うので、何回までというのは一概には言えません。検査によって患者さん自身の受ける利益が、危険性よりもはるかに 大きい場合にのみ検査は行われます。また、1回に受ける放射線の量はごくわずかなので、妊娠中の方以外はまず心配要りません。
不安がある方や妊娠中の方は、医師と良く相談されると良いでしょう。検査にあたる診療放射線技師にも気軽にお尋ねください。
子供と大人では放射線の影響は違うのですか?
子供は成人よりも放射線感受性が高いといわれています。その理由として、
- 成長期の子供の細胞分裂が盛んであること。
- 成人に比べ赤色骨髄が多いこと。
- 生存期間が長いので、潜伏期間の長いがんが出現する可能性があること。
- 遺伝的影響に対して有意な期間が長いこと。
があげられます。子供の放射線診断を行う場合、医師は細心の注意を払っており、診療放射線技師は鉛による生殖腺防護を行い、放射線が当たる場所をできるだけ少なくし撮影部位以外の被ばくを最小限に減らすなどの努力をしております。
生殖腺に放射線を受けると子供ができなくなるのですか?
かなり高い放射線に被ばくしないかぎり、一時的であっても不妊になることはありません。つまり、少しでも被ばくしたら不妊になる可能性があるのではなく、一定の線量以上被ばくしないと不妊にはならないのです。不妊になるのは生殖腺に一定以上の線量を被ばくした場合だけで、身体のほかの場所を被ばくしても不妊にはなりません。
受けた放射線が原因で、将来生まれてくる子供に遺伝的な疾病が発生するのですか?
遺伝的影響は、子供を産む可能性がある年齢の人が生殖腺に被ばくした場合に限って問題になる影響です。これから子供を産む可能性のある若い人でも、生殖腺以外の部位なら、仮にどんなに大量の放射線を受けたとしても遺伝的影響が発生する可能性はまったくありません。仮に放射線検査で生殖腺に被ばくしたとしても、通常の行為で受ける生殖腺の線量では、遺伝的影響の発生を心配する必要はありません。
※ 通常のX線診断で人体に何か問題になるような量の放射線を受けることはないので、X線診断を受けたことが原因で人体に問題が出る可能性はほとんど無いと考えて良いでしょう。それ以上に重要なことは、行われたX線診断が病状を知るために不可欠な検査であったのか、ということです。放射線診断の実施に当たっては、医師あるいは診療放射線技師が適用の判断を慎重に行い(行為の正当化)、できるだけ被ばく線量を少なくする(防護の最適化)努力をおこなっています。
参考文献:あなたと患者のための放射線防護Q&Aより