富士宮市立病院看護部ブログ
ナースのつぶやき
最期のお顔は安らかに
今回は、院内にエンゼルメイク(死後のケア)を伝え、浸透させた認定看護師さんにつぶやいてもらいました。
緩和ケア認定看護師 夏目 智子
人はいつか亡くなっていきます。以前はご自宅で亡くなられる方が多かったですが、現在は多くの方が病院で命を引き取っていきます。看護師はご家族と一緒に体を拭き、お化粧で顔色を整えます。ご家族と一緒におこなう理由は、私たちは病気になってからの患者さんしか知らないからです。その場面は、悲しい中にも和やかな時間が流れます。「お父さんの髭剃ったの、初めてだよ」「こたつで寝ているおじいちゃんの顔だ」「おばあちゃん、おじいちゃんが待っているから、きれいにしていかなきゃね。」「かっこいい。これ、出会ったときの服なの」ご家族の思いが溢れる時間です。
私が最期のお顔が気になるようになったのは、患者さんとの関わりからです。私が看護師になりたての時、とてもおしゃれに気遣っているAさんがいました。ご主人の来る前は、お化粧して「きれいなほうがいいでしょ」と言っていました。Aさんは朗らかなお話が大好きな方でした。その5年後、私は富士宮市立病院に移りました。しばらくすると、Aさんが亡くなったと友人から聞きました。友人によると、Aさんは亡くなる間際「きれいなお母さんの顔を覚えていてほしい」と、ご主人、小さなお子さんの面会を断り、お棺の中の顔を誰にも見せないでほしいとお姉さんに伝えていたそうです。私の心の中に、本当にそれで良かったのかな?ご主人、お子さんは大丈夫かな?という疑問は今も残っています。
それから数年たち、「その人らしい最期の顔で送り出そう」という研修に出会いました。亡くなったときに、ご家族と一緒にお体を拭く、穏やかな顔に整えるメイク方法などに「これだ」と私は思いました。なぜなら、どこの施設でも、亡くなった方は看護師だけで素早く整え、お帰りいただくことが多かったからです。一緒に取り組んでくれる仲間ができ、病院内に広まりました。その取り組みから約10年経ちました。今ならAさんに、最期の洋服はどうするか、お化粧は?と相談することができたと思います。
お見送りする場面を大事にするということは、その方の生きていく時間を大切にしていく事と同じと感じています。だから、私たち医療者は、最期のお顔が穏やかであるということを大切にしていきたいです。